ファイナリスト

国際的な舞台で活躍し現代アートに深い見識を持つ審査員11名による審査の結果、2025年9月、5組のファイナリストが選出されました。

黒田大スケ | TERRADA ART AWARD 2025 ファイナリスト

黒田 大スケくろだ だいすけ

小林勇輝 | TERRADA ART AWARD 2025 ファイナリスト

小林 勇輝こばやし ゆうき

是恒さくら | TERRADA ART AWARD 2025 ファイナリスト

是恒 さくらこれつね さくら

谷中佑輔 | TERRADA ART AWARD 2025 ファイナリスト

谷中 佑輔たになか ゆうすけ

藤田クレア | TERRADA ART AWARD 2025 ファイナリスト

藤田 クレアふじた くれあ

黒田 大スケ

くろだ だいすけ

黒田 大スケ

PROFILE

1982年京都府⽣まれ。広島市⽴⼤学⼤学院博⼠後期課程修了(彫刻)。2019年~2020年⽂化庁新進芸術家海外研修員。社会の中に佇む幽霊のような忘れられた存在に注⽬し作品を制作している。近年は彫刻に関するリサーチを基に、近代以降の彫刻家についての映像作品を制作。近年の主な展覧会に、『記憶と物―モニュメント・ミュージアム・アーカイブ―』(広島市現代美術館、2025年)、『天幕のためのプラクティス』(⼤阪府⽴江之⼦島⽂化芸術創造センター 2025年)、『第7回昌原彫刻ビエンナーレ2024「silent apple」』(韓国昌原、2024年)などがある。

小林 勇輝

こばやし ゆうき

小林 勇輝

PROFILE

1990年東京都生まれ。2016年ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修士修了。2019年パフォーマンス・プラットフォーム 「Stilllive」を設立。『2023年度ACC日本グラントプログラム』個人フェローシップ ビジュアルアート部門受賞。近年の活動に、『CHAT 5周年記念展 - Factory of Tomorrow』(Centre for Heritage, Arts and Textile、2024年)、『ウォーターミル・センター 2024 アーティスト・イン・レジデンス』(ニューヨーク)、『2025年度 ACYアーティスト・フェローシップ』など。

是恒 さくら

これつね さくら

是恒 さくら

PROFILE

1986年広島県生まれ。2010年アラスカ大学フェアバンクス校卒業(BFA)。2017年東北芸術工科大学大学院修士課程修了。2022年~2023年文化庁新進芸術家海外研修制度にてノルウェーに滞在、鯨類と人の関わりや海の民俗へのリサーチから作品制作を行う。近年の主な展覧会に、『VOCA展2022』(上野の森美術館)、『currents / undercurrents -いま、めくるめく流れは出会って』(国際芸術センター青森、2024年)、『国際芸術祭あいち2025』などがある。

谷中 佑輔

たになか ゆうすけ

谷中 佑輔

PROFILE

1988年大阪府生まれ。2012年京都市立芸術大学美術学部彫刻専攻卒業。2021年HZTベルリン Solo/Dance/Authorship 修了。展覧会や舞台公演を横断しながら、身体の脆弱性についての作品を発表している。近年の主な個展に、『弔いの選択』(十和田市現代美術館、2024年)、『Osaka Directory 8』(大阪中之島美術館、2024年)。主な舞台発表に、『空気きまぐれ』(京都芸術センター、2023年)、『Gallop』(CoFestival Ljubljana、2022年)など。

藤田 クレア

ふじた くれあ

藤田 クレア

PROFILE

1991年中国北京市生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修了。動力的な装置と自然由来の素材を組み合わせ、社会構造や人間関係の中で直面する問題や葛藤を出発点に作品を制作する。主な個展に、『ふとうめい な 繋がり』(資生堂ギャラリー、2020年)、主なグループ展に、『SOUND & ART展』(アーツ千代田3331、2021年)、『底に触れる 現代美術 in 瀬戸』(愛知県瀬戸市、2024年)がある。

ファイナリスト展

「TERRADA ART AWARD 2025 ファイナリスト展」では、 倉庫をリノベーションしたアーティストの世界観・才能を開花させる空間を舞台に、ファイナリスト5組が「TERRADA ART AWARD 2025」へエントリーした展示プランによって独自の展示を創り上げ、未発表の新作を含む作品を発表します。

会期
2026年1月16日(金)~2月1日(日)

※ 会期中無休

時間
11:00~18:00(最終入館 17:30)
入場料
無料
会場
寺田倉庫 G3-6F(東京都品川区東品川2-6-10 寺田倉庫G号)Google Map
アクセス
東京モノレール羽田空港線 天王洲アイル駅中央口 徒歩5分
東京臨海高速鉄道りんかい線 天王洲アイル駅B出口 徒歩4分

※ 施設内に駐車場はございません。お近くの有料駐車場をご利用ください。

審査員総評

最終審査員 (二次審査を終えて)

金島 隆弘

金沢美術工芸大学 芸術学SCAPe 准教授

今回の審査では、TERRADA ART AWARD が日本の現代アートシーンに定着したことで、アウォードに相応しい応募が増えた一方、その枠に収まりきらない挑戦的な作品が少なくなった印象も持ちました。しかし、世界各地で活躍する日本人作家からの応募が増え、海外との接点としてこのアウォードが機能する実感を持てたことも事実で、世界と繋がる日本の登竜門的な存在として今後発展していくことを切に願います。作品の制作理由や最終的な展示内容をより明確にしたり、焦点をより絞ることで最終まで残ったであろう作品も多くあった中、ファイナリストの5名の作家は、今日の社会的背景や美術の⽂脈を踏まえながらもより実践的に、 各々独自の視点から作品を構想できていたことが印象的で、作品の完成が今から楽しみです。今の時代を試行錯誤しながら制作に励む多くの若手作家の意欲に触れることのできるこのアウォードに審査員として参加させていただき、毎回ありがたく思います。

神谷 幸江

国立新美術館 学芸課長

私たちが自由に国や地域を行き来できる。多くの人々と知り合い、さまざまな⽂化と出会うことができる。その当たり前と思っていた世界に、暗雲が立ちこみ始めてきた。TERRADA ART AWARDへの数々の応募提案からは、活躍と飛躍の機会に備える次世代の表現者たちの多くが、分断が始まる時代の空気をしっかりと感じ取り、それぞれに応え抗おうとしていることが伝わってきた。さらにファイナリストたちは、決して一度の思いつきではなく、思考する姿勢と構想をもう一歩展開する実践力が伴っていると感じられた。気をつけたいのは、緊急性の高い社会的課題を取り上げようとするあまり、表現が流行り言葉のように表層的な繰り返しに陥っていないかだ。危機の時代に向かう想像力を美術表現がいかに持てるか、応募者のプロポーザル実現に期待したい。

寺瀬 由紀

アートインテリジェンスグローバル ファウンダー

TERRADA ART AWARDも定期的な開催を再開して3回目と言うこともあり、今回は応募された作家の皆さんの全体的な経験の豊かさや作品の質の高さが特に目立ったように思います。全体的には、作家の原体験や個人的な経験をきっかけに、オーディエンスが共感し考えさせられるメッセージへ昇華させていける、即戦力および適応力が高く、国際的な舞台に出ても遜色のない作品が今までに比べても圧倒的に多かったように感じます。同アウォードが国内の公募展として、力のある作家に認められ、そのような地位を築いてきていることは、非常に喜ばしいことです。一方で、今回は思っていたよりも経験歴の短い、年齢の若い作家さんの応募が少なかったように見受けられる点も、少し個人的には気になりました。言語化する力は経験値が高い作家の方の方が巧いからこそ、最終まで駆け出しの若い作家が残りにくかったということなのかもしれませんが、ワクワクさせる荒削りな若い作家さんたちのほとばしるエネルギーも是非もっと見てみたいですし、若い作家の皆さんも是非今後も臆せずに挑戦して欲しいとは思っています。

真鍋 大度

アーティスト、プログラマ、コンポーザ

総じて、TERRADA ART AWARD 2025の応募作品は、身体反応や動物/環境との関係といったモチーフを通じ、人間中心の世界観を問い直し、歴史や記憶の空白に光を当てる作品が多い。インスタレーションとパフォーマンス、映像、テキストを重層的に組み合わせ、観客参加や地域協働を重視する表現が目立った。テクノロジーは手段にとどまり、人間の予測不能な身体性や共生の可能性に焦点が置かれている。また、祝祭的な楽しさと批評性、フィールドワークに根ざした地域性と普遍的なテーマを併存させる作品が多く、歴史や社会に対する批評的な視点と、共同体の生成や対話の場を生み出そうとする実践が今回の特徴といえる。

鷲田 めるろ

金沢21世紀美術館 館長、東京藝術大学 准教授

5人のファイナリストには、いずれも一定の実績がありながら、今後作品を豊かに展開してゆくことが期待できる作家を選ぶことができた。民俗学的なアプローチをとる是恒さくら、彫刻史の政治性に向き合う黒田大スケ、武術をクィアの視点から捉え直す小林勇輝、新たなテクノロジーを彫刻的に扱う藤田クレア、谷中佑輔といった今日の美術における重要なトピックに取り組む作家たちがバランスよく残った。他方、2021年、23年のアワードで優れた作品がファイナリスト展で展示できた「移民」というテーマに関しては、今回は最終選考で優れた作品はあったものの、ファイナリスト展には残せなかった。銅像など具象彫刻を対象とすることが多かった黒田が今回のプランでは抽象彫刻をテーマとし、呼吸をテーマにパフォーマンス作品をつくってきた谷中が今回は息を使った楽器をモチーフとした立体作品に取り組むなど、これまでの経験を踏まえた新作に期待する。

一次審査員

池城 良

アーティスト、ミュージシャン、研究者、香港城市大学クリエイティブメディア学院 准教授

多様なポートフォリオを拝見でき、大変光栄でした。それぞれが丁寧に考え抜かれ、細やかな配慮が感じられ、心から感謝しています。審査員それぞれの個性が反映されて、豊かで多様なスタイルやアプローチを持つアーティストが選ばれたのではないかと感じています。今回が二度目の審査員としての参加で、以前応募された方々の再応募も見られたことを嬉しく思い、また前回との違いをいくつか見られました。アーティストとしての成長にはさまざまな形があることを改めて実感しました。ある意味では、それは自己を絶えず評価し続けることであり、芸術的実践そのものの重要な一部でもあります。

大巻 伸嗣

美術作家

前回に引き続き、審査員として2回目の参加となる今回は、前回と比べて、より制作経験を積んだ応募者が多く、全体として一定の成熟度を感じさせる内容であったことが印象的でした。このアウォードが、実践的な表現の場として認知されてきていることの表れとも受け取れます。
今回審査をしていて気になったのが、作家の言葉として語られる文章についてです。おそらくAI機能を使用したであろう文章が少なくないように感じました。AIを使用する事は悪いことではないですが、作者としての実感を伴った言葉が見えにくくなってしまう傾向があるように感じます。そうした中で、私はあくまで実直に自身の経験や身体的な制作プロセスに向き合っている作品や言葉に強く惹かれました。特に身体を用いたパフォーマンスや空間的なインスタレーション作品は、現在的な問いを内包しながらも、身体そのものを媒介とした表現に説得力があり、非常に興味深く感じました。
コロナ以降、私たちは「身体」という存在を改めて見つめ直す時間を持てたように思います。実際に選出させていただいた作家たちも、その身体の捉え方や、形・存在そのものに対する感覚的かつ批評的なアプローチを持っており、そのプロセスの在り方に魅力を感じました。
このような作家たちが、今回の受賞をきっかけに今後さらに発展していくことを大いに期待しています。

木村 絵理子

弘前れんが倉庫美術館 館長

今回の審査では、前回に比べてキャリアが豊富なアーティストや、海外出身で日本を拠点に活動するアーティストの応募が多かったことが印象的でした。回を重ねるにつれて、本アウォードが中堅の活発な活動をするアーティストのための機会として定着してきたことを実感します。ますます競争力が求められる状況下ではあるものの、ファイナリストに選ばれたアーティストたちには、倉庫特有の大きな空間で展示を実現する力だけでなく、同じ空間を共有して観客を迎え入れるため、共にグループ展を作っていくような調和力も求められます。表現者に要求される多彩な能力を試される場として、ファイナリスト展での展示がどのようなものになるのか、楽しみにしています。

高橋 龍太郎

精神科医、現代アートコレクター

今回の審査は前回に比べ、比較的スムーズに絞り込むことができた。馴染みの作家がほとんどになってきており、それは良いことなのか悪いことなのか。
日本の現代アートの質が粒揃いで一定の水準を超えてきている証しとも取れるが、一方で自分の選択がまるで生成AI化しているのではという居心地の悪さも感じてしまった。自分としては生成AIにおけるハルシネーションのような度肝を抜かれる作品を期待しているのだが、そこまでの作品はなかったように思う。
アートというのはいつもハルシネーションであると思いたい。

竹久 侑

キュレーター、水戸芸術館現代美術センター 芸術監督

今回は、前回と比べ、応募者の実践面の経験値が高い傾向にあり、ポートフォリオを見るにおいても興味深い活動に目が留まりました。すでに美術館や芸術祭での展示歴があるか否かを問わず、自身のスタイルを確立しつつあるアーティストの応募が目立ち、それぞれの志す方向を見据えて根気強く活動している様子がうかがえました。通過者として選定された方たち以外にも、今後の活動が期待できる応募者もいました。全体的に、東京の芸術・美術大学の在校生や出身者からの応募が目立ち、大学に偏りがあるように思え、関西方面の芸術・美術大学からの応募者が増えた時に全体の傾向がどのように変わるか、個人的に興味があります。

椿 玲子

森美術館キュレーター

今回は、デジタルやロボティクス、さらにAIを使用した作品が増えました。ただ、単に最新の技術のみを使っているという訳でもなく、それらとアナログな技術の併用、デジタル技術を通して「身体性」や「物質性」を探るもの、ノスタルジーを表現するものなど、使い方の多様性と可能性が興味深いと思いました。さらに、クィアの視点、フェミニズムの視点、移民の視点などを持つ作品もあり、歴史の再解釈に重要だと感じました。
いつの時代にも不確定要素と危機感はあるものですが、現代社会は、気候変動、戦争、格差、AIの進展、パンデミック後の価値観の変容など、多くの不確定な要素に直面していると言えます。こうした状況において、アートは「たった一つの答えや正しさ」を示すのではなく、「多様な存在の可能性」を表現によって提示しつつ、「それらが共存するための思考を促す場」として機能しているのではないかと思います。

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